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- 公開日:2024.10.10
更新日:2024.10.17
許容応力度計算をしないとどうなる?命を守るための必須知識
1法環境や構造計算方法を整理
構造計算の種類
構造計算の種類は、「許容応力度計算」「許容応力度等計算」「保有水平耐力計算」「限界耐力計算」「時刻歴応答解析」のおおむね5つとなります。
許容応力度計算とは?
許容応力度計算は構造耐力上主要な部分(構造部材)が通常時(長期荷重時)の使用に加えて、強風時、積雪時、中規模な地震時(短期荷重時)において構造部材に損傷などがなく使用し続けることができることを目的としてします。建築基準法に定められた計算方法で、計算方法はひとつしかありません。
許容応力度計算による耐震等級3の考え方
許容応力度計算には一つの計算方法しかないため、耐震等級2や3という表現には法的な根拠はありません。しかし、多くの会社では分かりやすさのために「許容応力度計算による耐震等級3」という表現を使っています。これは「総せん断力係数(Co)」が関係しています。建築基準法では中程度の地震に対して通常Co=0.2を使いますが、これに1.5倍を掛けた0.3を使用することで強度が高まるので、それを便宜上「耐震等級3」と呼んでいるのです。
許容応力度等計算とは?
許容応力度等計算とは許容応力度計算のほか、地震力や風圧力などにより、どのくらい建物が傾くかを計算する層間変形や、建物の固さを表す剛性率、建物の重心と剛心の距離の度合いを測る偏心率などを求めることにより、建築物の構造的なバランスが検討されます。
保有水平耐力計算とは?
保有水平耐力計算は建物の高さが60m以下の建築物に適用できる計算方法で、主に大規模建築物に対して用いられます。建物の損傷を前提に、「どのくらいの許容応力をもつか」と「どのくらいの変形まで耐えられるか」を検証します。大規模の地震動(震度6強~7)で倒壊・崩壊しないことの検証を行ないます。
限界耐力計算とは?
限界耐力計算とは、外部からの力が加わる際にどこまで耐えることができるのかをチェックするための計算方法で、考え方は「許容応力度等計算」と同じ考え方をとります。許容応力度等計算よりも、外部からの力により特化した計算をおこないます。耐久性等規定を除いた仕様規定を満たす必要がないのも特徴の一つです。剛性がバラバラなものや偏心が大きいものについては適用することができない計算方法でもあります。
時刻歴応答解析とは?
時刻歴応答解析は高さ60m超の高層建築物に適用される計算方法です。他の構造計算と異なり、動的概念を持ち込んでいるのが特徴です。簡単に言うと、0.01秒ごとに建物の揺れ方を解析する方法で、難解かつ、コストがかかる方法です。
許容応力度計算の特徴
許容応力度計算は中小規模の地震時における各部材の許容応力度計算は許容応力度等計算・保有水平耐力計算・限界耐力計算・時刻歴応答解析についても準用されており、それぞれの構造計算方法の一部として許容応力度計算は使用されます。
耐震等級3の位置づけは?
許容応力度計算は建築基準法に規定されています。
耐震等級3は正式名称「住宅の品質確保の促進等に関する法律」、略して「品確法」と呼ばれる法律が根拠となっています。品確法では主に、住宅性能表示制度、住宅紛争処理、瑕疵担保に関する内容について規定されていますが、耐震等級3は住宅性能表示制度の中の住宅の品質評価項目のひとつに属しています。
広義の構造計算?
耐震性能を確認する方法が木造住宅規模では主に3つあります。
①仕様規定(壁量計算) → 建築基準法レベル(新耐震基準)
②性能表示計算(壁量計算) → 長期優良住宅レベル(耐震等級1~3)
③許容応力度計算(ルート1計算) →構造計算による耐震等級1~3(※上記参照)
①と②は「構造計算」には該当しません。
これを勘違いしている建築士や住宅会社も多いです。
四則演算を使った簡易チェックによる広義の構造計算
①、②による計算は四則演算を使った簡易チェックと表現したほうが正しいかもしれません。何より根拠が曖昧と言えるでしょう。建物の安全性能を確認する際、
外部からかかる力 < 建物がそれに耐える力
という式が成り立つかどうかを確認します。
これは①でも②でも、③以上の構造計算(ルート2と呼ばれる許容応力度等計算、ルート3と呼ばれる保有水平耐力計算など)についても同じです。
高校物理で習うニュートンの運動方程式は地震力に転用できる
ここで、高校物理で習うニュートンの運動方程式の考え方が地震力に応用できるので、見てみましょう。運動方程式は、
F=ma
つまり、
力(Force)=質量(Material)×加速度(Acceleration)
で表されます。
この考え方を地震力に応用します。
地震力=建物の重さ×地震の力 ※簡略化してます。
で地震力は表されます。
仕様規定と性能表示計算があいまいな理由
先程、①仕様規定と②性能表示計算は「構造計算」には該当しない、あるいは簡易チェックと言ったのは、上の式の建物の重さが曖昧だからです。例えば、現在では仕様規定と性能表示計算における屋根の重さは「重い屋根」と「軽い屋根」の2つしかありませんし、外壁に至っては、モルタル塗りや窯業系サイディング、板張りやタイルであっても1種類の重さしかありません。
2025年の建築基準法改正
2025年には壁量計算で建物の耐力壁の数を求めるのに、実際の荷重に基づいて計算を行うようになる予定です。必然的に耐力壁の数は多くなることにより、設計者は梁などにかかる短期荷重について、より配慮する必要が出てきます。
許容応力度計算などの狭義の構造計算の場合
狭義の構造計算については、建物の重量を詳細に部材の種類ごとに積み重ねて合算します。また、積雪重量、風圧、建物の設備やピアノなどの大型家具の重量なども考慮にいれて計算します。このような方法で計算された建物の重量は、適切な地震力を導き出すのに役立ちます。
地震力や風圧力を受けた場合
ちなみに、仕様規定と性能表示計算は、地震力や風圧力などの外力を住宅が受けた場合を想定していません。これは2025年の建築基準法改正後も同様です。地震などの外力は短期荷重として住宅にかかってくるのですが、これらの短期荷重を想定しておらず、地震国といわれる日本の建築基準としては不十分な基準といえるでしょう。
許容応力度計算など狭義の構造計算の場合
先程、地震力=建物の重さ×地震の力とお伝えしましたが、住宅を地震に耐えられるようにするために、根拠のある建物の重さを算出することは重要です。許容応力度計算をはじめとする狭義の構造計算については、建物の重さについて、根拠のある数字を元に計算するので、ある程度、信頼がおけます。もちろん、地震時に住宅にかかる力も短期荷重として想定しているので、日本の地理的環境に則した計算方法といえます。
2地震に負けない家づくりのために
どこに建てるか?~軟弱地盤を身近なものに例えると
どこに住宅を建てるかは地盤強度の観点から非常に重要です。もし、地盤が軟弱であれば、地震時に建物はどのような影響を受けるでしょうか。それには、日常の身近なもので比較すると、わかりやすくなります。もし、お皿の上に豆腐と消しゴムを並べたとします。同じ条件下でそれぞれを揺らした場合、消しゴムに比べ、豆腐の方が揺れやすくなると、容易に想像できます。
軟弱地盤での建物の揺れ方
同様に、もし地震が起きた場合、同じ地域であっても地盤の強固な場所に建つ住宅と、地盤が軟弱な場所に建つ住宅があった場合、地盤が軟弱な場所に建つ住宅の方が、地震時に建物は揺れやすくなります。
地震波と地盤の固有周期
これには地震波が関係しています。地震波とは地中に振動が生じ、周囲に波として伝わっていく現象のことをいいます。地震波にはさまざまな周期の波が重なっていますが、通常は0.5~1秒ほどの周期の波が最も多いといわれています。地盤の固有周期と地震波の周期が一致すると共振現象が起こり、地盤は大きく揺れます。
共振現象とは?
ある物体に衝撃を加えると、その物体は固有の決まった周波数で振動します。これを固有振動といいます。一方、「共振」とは、静止している物体に、物体の固有振動数と同じ周波数の振動を外部から加え、物体が振動することをいいます。ちなみに、物体の固有振動数と同じ周波数の振動を繰り返し外部から加えると、物体はより大きく「共振」します。日常ではブランコに乗って、タイミングを合わせて体を動かすと、よりブランコが動くようになりますが、これも共振現象の一つといえます。
キラーパルスとは?
また、キラーパルスという言葉を聞いたことがあるかもしれません。「キラーパルス」とは周期が1秒~2秒ほどの地震周期で、軟弱地盤で起こりやすいといわれています。阪神淡路大震災や、今回の能登半島地震などの地震は「キラーパルス」が発生したといわれ、地震周期が建物の固有周期と「共振」したため、被害が拡大したといわれていますが、今後の検証が求められます。
立地と構造計算の関係
地盤が軟弱な場合、地震による揺れが増幅されて被害が大きくなる可能性があるといいましたが、これには、地盤の揺れ方と地盤内部の水分量、地盤の密度などにより、結果はそれぞれ異なってきます。ちなみに、軟弱地盤は、造成地や埋立地、河川周辺や水田の跡地などに多く見られます。
リスクを回避するために
地震時のこのようなリスクを回避するために地盤調査や地盤改良工事は効果的といわれています。もし、地盤が軟弱な場合は、適切な地盤改良工法を選択して実施することが必要です。主な対策工法は、杭打ち工法、表層改良工法、深層混合処理工法(柱状改良)などがあります。また、耐震等級3の住宅にすることも当然ながら、有効な対策です。
建物の固有周期
地震が起こると、地震の揺れは建物にも伝わります。住宅の固有周期は、一般的に新しい二階建てでは約0.2秒、古い二階建てでは約0.3秒、平屋の場合はそれより少し短いとされています。(引用:日本地震学会の資料による)また、複数回の地震に建物がさらされると、固有周期が変わることがあるとも言われていますが、その詳細はまだよくわかっておらず、今後の研究が必要です。
実際の地震力の伝わり方
実際に、地震が発生し、建物に伝わった場合、先ず揺れるのはどこでしょうか。答えは「水平構面」と呼ばれる上層階の床になります。床が柱に地震を伝達し、柱から基礎・地面へと伝えます。その際、各部材が地震力に耐えながら地面の方向に地震力を伝えるためには、各部材はしっかり緊結されている必要があります。
家の許容できる応力度 > 地震力など外力を受けて部材にかかる応力度
また、地震に負けない家づくりをするためには最低でも許容応力度計算がなされ、屋根、床、梁などの横架材、柱、土台、基礎、各種金物が持つ地震に反抗する力(応力)が地震力や風圧力を上回る必要があります。
部材にかかる応力度が許容応力度を上回った場合の倒壊パターン
地震が発生し、上階床が揺れて地面の方向に地震力を伝える過程で、建物の弱い部分に力がかかり部材の持つ応力を上回った場合、部材は破断します。実際の地震後の検証で建物の倒壊の原因のほとんどが、「曲げ」「せん断」「ねじれ」によるものだったことが専門家により明らかになっています。
「曲げ」とは?
「曲げ」とは、簡単に言うと、部材を曲げようとする力のことです。イメージとしては、長い木材の中央に、上から力をかけた場合などです。この場合、木材の上側の断面は圧縮され、下側は引張力をうけます。「曲げ」が生じるような力を「曲げモーメント」といいますが、長い梁などの横架材の中央に起こりやすくなります。
「せん断」とは?
「せん断」とは木材などの物体にある面を境に、左右で相対する方向にかかる力のことをいいます。日常では「はさみ」がいい例です。「はさみ」は右の刃の力が下方向にかかる場合、左の刃は必ず、上方向に力がかかるようになります。そのような動きをすることで紙などは切れます。「はさみ」による上下の力を「せん断力」といいます。住宅では梁や柱の結合部分で起こりやすくなります。
「ねじれ」とは?
住宅のおける「ねじれ」とは、「重心」と「剛心」がずれることで生じやすくなります。
「重心」は建物の重さの中心のことで「剛心」は建物の強さの中心になります。「重心」と「剛心」の「ずれ」を防ぐためには、構造上重要な柱や耐力壁をバランス良く配置することが重要となります。そして、建物に重要な柱や耐力壁をバランス良く配置するためには、「建築士」の経験や技術が問われることとなります。
倒壊しないための部材の選定
各住宅の部材の選定については、「建築士」の経験や技術が重要です。例えば、通常より負担のかかる部材については、柱や耐力壁の追加、横架材のせい(厚さ)や金物の配置を工夫することが求められます。
3図面通りに建てることができるか?
図面と現場の乖離
経験や技術のある「建築士」が、構造計算をしてどんなに優れた図面を作ったとしても、それを実際の現場でしっかり反映させなければ、意味がありません。現実問題として、他の担当者に正しく図面の内容が伝えられていない場合、現場でその設計が正しく実行されない可能性があります。当然、完成した住宅の安全性に問題が生じる可能性があります。
床下に設けられた人通口
工事の一例として、床下の「人通口」に注目してみましょう。床下点検口は、必ずしも設置する義務はありませんが、建物の安全性や耐久性を確保するには重要な設備です。また、床下内部には、建物の維持・管理を円滑に行うため、基礎の立ち上がり部分に「人通口」という開口部が設けられています。基礎部分を点検や補修する際に、「人通口」があることで、作業者が建物の基礎内を移動しやすくなるというメリットがあります。
面で支える「べた基礎」とは?
次に、最近多く採用されている「べた基礎」工法についてお話しします。べた基礎とは、建物の底面全体を鉄筋コンクリートで覆う基礎工法です。建物の重みを基礎全体の「面」に分散するため、安定した基礎になります。
形だけの「べた基礎」になってないか?
建物をしっかりと「面」で支えるためには、基礎の底面に加えて、底面から垂直方向に「立ち上がり」が十分に設けられていることが不可欠です。特に「人通口」には「立ち上がり」がなく、住宅でいう「梁」にあたる部分が欠けているため、補強が必要です。これがないと、建物を「面」で支えることができません。
形だけの「べた基礎」が多い部分は?
「人通口」の処理が不十分なケースが多く見られます。床下のメンテナンスのために「人通口」は必要ですが、この部分には鉄筋が入らないため、耐震性能の弱点となりやすいです。本来であれば、建物を支える「地中梁」を設置するかどうかを、建築士がしっかりと見極める必要があります。しかし、残念ながら一部の建築会社では、許容応力度計算の技術が不足しており、必要な補強が十分に行われていないことがあります。この補強不足は、住宅の耐久性や安全性に深刻なリスクをもたらす可能性があり、重大な問題です。
人通口の処理や地中梁の必要性
許容応力度計算では、この弱点を補うために、地中梁などを使って補強することが必須です。この補強は非常に重要です。過去の地震では、建物自体は無事でも、基礎部分が倒壊し、結果としてその家に住めなくなった事例が数多く見られました。もし、適切な構造計算と補強が行われていれば、違った結果になっていた可能性があります。ですから、確実な計算と補強によって、基礎から安全な住宅を実現することが何よりも重要です。
住宅建築の施工精度をアップさせるために必要なのは
住宅建築では、3つの異なる役割を持つ専門家たちが連携して作業を進めています。まず、実際に現場で工事を行う「工事担当者」、次に工事全体を監督し管理する「施工管理者」、そして建物の設計図を作成し、技術的な判断を行う「建築士」です。この3者の連携が、建物の品質や安全性を確保するために不可欠です。
構造計算を理解した建築士が現場担当者と相互理解を図る唯一の方法
まず、専門的な知識に基づいて納得できる図面を作成できる「建築士」の存在が欠かせません。そして、その図面を正しく理解し、現場で実行できる「施工管理者」も非常に重要です。さらに、「建築士」と「施工管理者」が意見を交換し合える環境も必要です。お互いに意見を共有し、知識を深めることで、施工品質を向上させることが可能になります。こうした連携があることで、安全で信頼できる住宅建築が実現するのです。
基礎の事例から災害時を考える
以上のことを踏まえると、基礎が倒壊した事例について、このような知識を持った人物の存在や、意見共有できる環境はあったのでしょうか。仕様規定や性能表示計算に従っていたとしても、許容応力度計算ができる「建築士」や、その図面を正しく理解する「施工担当者」が関与していたかは疑問です。大地震が起これば、建物の倒壊によって命を失う方、家を失う方、住宅ローンが残ってしまう方など、避けられない悲劇が生じます。私たちはこれらのリスクを真剣に考え、確実な建築体制を整える必要があります。
コストの考え方
地中梁のような補強は、地震などの短期的な強い力に対して非常に有効ですが、コストが上がる要因になります。では、選ばない方がいいでしょうか。このような安全対策のためのコストを、身近な例で説明するなら、車のエアバッグやABSのような安全装備に当たります。こちらも費用がかかりますが、安全性を高めるためには欠かせないものです。また、定期的な健康診断や人間ドックも費用がかかりますが、大きな病気やリスクを未然に防ぐためには必要な出費です。
耐震コストの重要性
現在、各地で頻繁に起こる震災は、通常ではあまり起こらない大きな事故かもしれませんが、日本の地理的環境を考えると「南海トラフ」や「2,000超の活断層」の存在などもあるため、決して無視はできません。先程の事例で「エアバッグは不要だ」と考える人はいないでしょう。同じように、「耐震性能にお金をかけるのは無意味だ」と考えるのは危険です。耐震性能は、かけがえのない命を守るために重要な役割を果たしているのです。
安全な住宅設計と未来に託す思い
ほとんどの人にとって家づくりは一生に一度の経験で、その後の人生に大きな影響を与えるものです。そのため、できるだけ理想に近い家を建てたいと思うのは当然です。さらに、その家が少なくとも許容応力度計算に基づいて設計されていれば、安全性に根拠のある信頼できる家だと言えるでしょう。
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