- 耐震性能
- 2023.3.29
2025年建築基準法改正~「許容応力度計算」を解説~
01.環境
日本は4つのプレート(①北米プレート ②ユーラシアプレート ③太平洋プレート ④フィリピン海プレート)に囲まれているだけでなく、日本全国で約2,000の活断層があるといわれる世界的にみても大きな地震の多い地域です。
02.被害:地震の被害に遭うと
- 地震保険は保険金が下りますが、全壊になれば命の危険性があります。
- 国の補助金はあるかも知れませんが、全額補償されるかどうかは不明です。
- 住宅会社の保証は、自然災害について免責(保証なし)扱いです。
- 銀行による住宅ローンの免除はないので、支払は続きます。
このように地震被害に遭うと、様々な肉体的、精神的苦痛が起こりえます。
03.建築基準法
それでは地震の被害を抑えるために、建物を建てる際の元となる建築基準法はどのようになっているのでしょうか。
ここでは地震対策に有効なクラッチの地震対策を「法制度」とその変遷を交えながらご案内します。
法制度
日本では大地震のたびに、建物の倒壊について専門家が調査をし、それに基づいて法改正してきた歴史があります。そのため、建築基準法は以前よりも規定が細かくなっています。
建築基準法による申請手続き
木造住宅を建てる際、設計図書の提出が「特定行政庁」や「確認検査機関」へ求められますが、驚くことに、構造の安全性に関わる書類は、木造2階建て以下・約151.25坪(500㎡)以下の家の場合、提出不要です。そして、多くの木造住宅がこの範囲に該当するため、ほとんどの家が構造の安全性に関する書類の提出を省略できるということになります。
現行の建築基準法の問題点
現行の基準法により、提出が求められるのは特定の図面や建築地の情報書類だけ。構造計算は建築士の判断に任せられており、これが提出されることはありません。このため、建築士ごとの安全性評価が適切に行われているかが大きな懸念点となっています。
専門家からみた現行の建築基準法の問題点
一部の専門家は、「図書省略」という規定を「計算省略」と誤解している建築士もいると指摘していますが、全貌の把握はできていません。さらに、地震対策に効果的とされる「許容応力度計算」は、その計算の複雑さから建築業界での採用が進んでいないのが現状です。結果として、各企業の対応の違いから住宅の構造安全性に格差が生まれてしまっているという状況を引き起こしています。
建築基準法が改正されます
このままでは地震時の安全性が保てないとの有識者の声もあり、2025年、建築基準法がリニューアルします。従来の四号建築物はなくなり、二号建築物に分類されるようになります。改正後、ほとんどの木造住宅(200㎡以下の平屋を除く)について、従来の「図書省略」は廃止になり、構造の安全性に関して「仕様規定」「性能表示計算」「許容応力度計算」の、いずれかの計算方法で図書審査を必ず受ける必要があります。
構造の安全性 3つの計算方法
2025年の建築基準法改正により、構造の安全性については、十分に強化されたといえるでしょうか。実際に構造の安全性に関する3つの計算方法のそれぞれの特徴をみてみたいと思います。
仕様規定(簡易計算)
「仕様規定」には最低限守らなければならないルールがありますが、簡易計算と言われるものです。床などが含まれる水平構面、梁(はり)や桁(けた)などが含まれる横架材や基礎についての検討はされていません。
性能表示計算
「性能表示計算」は、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づく計算方法です。この計算では、「仕様規定」では計算しない床や屋根などの水平構面と呼ばれる部分についても検討します。水平構面(床、屋根)は水平方向の平面骨組のことで、地震力や風圧力などの「水平力」を伝える役割があります。建物を地震や台風などから守る上で耐力壁が非常に重要ですが、水平構面は建物の一体性を高めるという点で非常に重要です。一方で基礎や横架材に関する検討が不十分と言われています。
許容応力度計算
「許容応力度計算」は、建築基準法に定められた「構造計算」の4つの方法のうちの一つになります。詳細な計算が各部材等について行われるので、構造計算書は書面にすると、200ページ以上になります。「許容応力度計算」は台風や地震の力(外力)を受けた住宅にかかる力(応力)を計算し、万一の地震時にどれくらいの強度が必要なのかを計算(許容応力度計算)する方法です。日常で目にする木造3階建ての建物は、「許容応力度計算」がなされています。「許容応力度計算」を経た建物は地震に対する有効性が高いと言われています。
2025年建築基準法改正による新たな問題点
構造安全性に関する添付書類(正式には構造関係規定等の図書)が、最も簡単といわれる「仕様規定」で作成された場合、大地震時の建物の安全性を保てるのかについては不十分とも言われています。なぜなら、「仕様規定」は地震時の建物に重要な役割を果たす水平構面(床、屋根の強度)に関する計算が、全く含まれないからです。計算方法については、「許容応力度計算」の安全性が一番高く、次に水平構面の計算をおこなう「性能表示計算」、続いて「仕様規定」の順となります。ちなみに、専門家の間では、木造2階建ての構造の安全性に関する計算の中で最も安全性が高いといわれる「許容応力度計算」の実施や、建物の強度として最も高い耐震等級3を義務化することが望ましいといわれています。
「許容応力度計算」が普及しない理由:計算ソフトへの対応?費用?
建築業界全体でいうと、「許容応力度計算」を理解する建築士が少なく、構造計算用ソフトにも対応が出来る工務店が少ないのではと言われています。また、時間的な問題もあげられます。「許容応力度計算」の複雑さがゆえに、設計者側や受け付ける審査機関でも計算にかなりの時間や費用を要することが予想されます。これらの理由により、「許容応力度計算」は普及しないともいわれています。
「許容応力度計算」の概要を簡単に説明
複雑で安全性が高いといわれる「許容応力度計算」とはどのようなものなのでしょうか。計算方法を含めた考え方をご紹介します。
地震の時に家にかかる力よりも家が強ければいいという考え方
「許容応力度計算」とは、台風や地震の力(外力)を受けた住宅の各部材にかかる力(応力)を計算し、万一の地震の際、各部材にどれくらいの強度が必要なのか(許容応力度)を割り出します。そして、各構造部材の耐えられる応力の限界が、地震時に各構造部材にかかる力を上回るように計算する方法です。
地震の時に家(木造2階建て)にはどんな力がかかるのか
地震によって建物に働く力を地震力といいます。地震力は建物の重さに比例して、増加します。例えば、手ぶらで立っている男性と、子供を肩車して立っている男性がいると仮定します。二人を横から一定の力で押す(外部から力が加わった)と、手ぶらの男性には、さほど影響がありません。
一方、肩車をしている男性には、子供の体重増加分を含めた身体を支えるために踏みとどまる力(応力)がより必要になります。このように、踏みとどまる力は重さに左右されます。それと同じことが建物にもいえます。建物にかかる地震力を知るためには、建物にかかる重さを計算する必要があります。「許容応力度計算」も建物の重さを知ることが第一歩になります。
家の重さにはどのようなものが含まれるのか
建物にかかる重さには、屋根や柱、太陽光パネルなどの建物の重さ(建物自重)のほかに、建物の床にのる人や家財道具の重さを想定(積載荷重)します。また、積雪時の屋根にかかる雪の重さ(積雪荷重)やグランドピアノなど特に重い家財の重さも考慮(特殊荷重)します。これらの数値を合計したものが建物にかかる重さになります。
「許容応力度計算」では他にどんな計算が必要か
「許容応力度計算」には「ルート1」「ルート2」と呼ばれる計算方法があります。「ルート1」では、先程調べた家の重さがどのように建物の各部材や基礎に、下向きの力が伝わるかを調べます。そして、伝わった重さに材料が耐えられるかを調べます。また、地震の際にかかる力を建物の重さから換算し、同様に台風時に建物にかかる力を調べます。その後、地震や台風時に建物にかかる力(横向きの力)に材料が耐えられるかを調べます。ここまでが構造計算の「ルート1」と呼ばれる計算です。
ルート2は何をするのか
次に、「ルート2」に入ります。「ルート2」は正確には「許容応力度等計算」といい、基本的には「ルート1(許容応力度計算)」で不適合もしくは計算条件から外れた場合に行われる計算です。ちなみに、「ルート1」でも偏心率の計算もすることもありますし、クラッチでは層間変形や剛性率、偏心率まで確認しています。一般的には、ケースバイケースで「ルート2」の計算を行うこともある程度です。「ルート2」(一部、抜粋)では次のような計算をします。
層間変形
地震や台風時の建物の各階の水平変位(水平方向の変形)がどれくらい起こるか、長さを計算(層間変位)します。そして、層間変位を高さ(階高)で割ると、傾きが出ます。その傾きを各階で算出したものを「層間変形角」といい、地震や強風に対してどれだけ建物が変形するか、制限値以内に納まっているかを判断します。「層間変形角」に制限値があるのは、あまりに変形が進むと内・外装材のような非構造部材が建物の変形量についていけずに、破損や落下する可能性があるからです。
剛性率
剛性とは変形のしにくさを表す数値です。「剛性率」とは建物の固さを表す指標です。この計算では、建物の上下方向(各階)ごとに、「剛性率」(固さのバランス)を計り、一定以上の固さを保っているかを判断し、調整します。例えば、2階建ての建物で、いくら2階に耐力壁を設けていても1階が柔らかければ、1階と2階で揺れは異なります。仮にこのような構造を持つ住宅が地震に遭遇した場合、剛性率の低い(柔らかい)1階に変形が集中します。つまり、階毎の固さはなるべく均等であることが求められます。言い換えると、地震の際の各階の揺れをなるべく均一にするために剛性(固さ)を調整します。
偏心率
最後に、重心(建物の重さの中心)と剛心(建物の最も強いところ)の離れている割合を「偏心率」といいますが、重心に剛心を近づけ、「偏心率」を小さくする調整が行われます。ちなみに、「偏心率」の値が大きいと、地震時に建物に回転する力が生じるため、「偏心率」は小さくすることが求められます。
計算が終わった後は
木造2階建て建築物の構造計算としては以上です。現在の建築基準法には、簡単な計算による「仕様規定」や、「仕様規定」にプラスして水平構面の検討も行う「性能表示計算」、上記の「許容応力度計算」などがあります。一般的には、家の重さから許容応力度を算出し、物理的な検討をしている「許容応力度計算」により建てられた建物の安全性が一番高いということになります。
まとめ~地震に倒れない家づくりをするためには
地震による家屋倒壊の影響は計り知れません。万が一、大きな地震に被災した際には生命の危険性や残った住宅ローンの支払などの経済的リスク、精神的ストレスなど、大きすぎるリスクが伴います。専門家による様々な地震被害の検証により、耐震等級3の木造建築が有効というデータが出ております。せっかく建てたお家にご家族みんなで長く住み続けられるように、これからの住宅に「許容応力度計算」による耐震等級3は必須といえるのではないでしょうか。
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